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水戸地方裁判所 昭和52年(ワ)155号 判決

原告 菊池繁

右訴訟代理人弁護士 石田武臣

同 田中峯子

昭和五〇年(ワ)第三四九号事件被告 丸大運送株式会社

右代表者代表取締役 湯浅泰

昭和五二年(ワ)第一五五号事件被告 湯浅いの

〈ほか三名〉

右被告五名訴訟代理人弁護士 内田弘文

主文

昭和五〇年(ワ)第三四九号事件被告会社、昭和五二年(ワ)第一五五号事件被告湯浅泰は原告に対し、各自金一九七〇万八五七五円及び内金一七九〇万八五七五円に対する昭和五二年八月六日から、内金一八〇万円に対する本判決言渡の日からそれぞれ支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告と昭和五〇年(ワ)第三四九号事件被告会社、昭和五二年(ワ)第一五五号事件被告湯浅泰との間においては、原告に生じた費用の二分の一を右被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告と昭和五二年(ワ)第一五五号事件被告湯浅いの、同湯浅博、同湯浅喜美司との間においては全部原告の負担とする。

この判決第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一双方の求めた裁判

一  原告

(一)  被告らは各自原告に対し、金四七二六万八五三二円及びこれに対する昭和五二年八月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  被告ら

(一)  原告の請求はいずれもこれを棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二双方の主張

一  請求原因

(一)事故の発生

原告は訴外白土建設株式会社(以下白土建設という。)の鉄骨工であるが、昭和四八年一二月二七日午前一〇時頃、千葉県佐倉市立志津小学校の体育館新築工事の鉄骨組立工事に従事中、訴外柴信義が運転していた移動式二〇トンクレーン車で吊り上げて移動していた鉄骨に当り、地上約八メートルの高さの合掌用鉄骨の上から地上に転落し、第二腰椎骨折、腎臓出血、内臓破裂、全身打撲の傷害を受けた。

(二)  責任原因

1 訴外柴信義は、訴外丸大自動車運送店(以下訴外丸大運送店という。)の従業員であるところ、その業務執行中に次に述べるような過失によって本件事故が生じたものであるから訴外丸大運送店を準共有(訴外丸大運送店は、訴外湯浅喜代蔵の個人商店であるところ、同人は昭和四八年一一月二〇日死亡し、被告いのが妻として三分の一、被告泰、同博、同喜美司が子として各九分の二を相続した。)していた被告いの、同泰、同博、同喜美司は、民法七一五条により本件事故によって蒙った原告の損害を各自賠償する義務がある。

本件事故は、原告が鉄骨組立工として、組立中の体育館の屋根の副合掌の取付に、訴外柴信義は地上でクレーン車を運転して鉄骨を吊り上げて取付部分に送る作業に従事中に生じたものであるところ、組立てた鉄骨の上で作業するものが高所移動中には、その安全を確保するため、吊り上げる鉄骨の高さは、組立が終った部分の鉄骨の高さより二メートル以上の高さを保ち、しかもこれを旋回させるについてはその移動する方向を注視し、危険な事態が生じたときは直ちに適切な措置を講じて事故の発生を防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、右二メートルの安全距離を保たず、しかも鉄骨を移動する方向の安全を確認しないまま吊りあげた鉄骨を旋回させたため、組立てた鉄骨の上を移動中の原告の頭部に当り地上に転落したものである。

2 仮りにそうでないとしても、本件クレーン車は、本件事故当時被告いの、同泰、同博、同喜美司が保有して運行の用に供していたものであるから、右被告らは自賠法第三条により、各自本件事故によって蒙った原告の損害を賠償する責任がある。

3 被告会社は、次により原告の損害を賠償する義務がある。

訴外丸大運送店は、被告いの、同泰、同博、同喜美司の準共有であるところ、昭和四九年二月か三月頃訴外丸大運送店の営業を被告会社に譲渡した。被告会社は、右営業譲渡を受けるに当り、訴外「丸大運送店」の商号を続用したものであるから、商法二六条一項により支払義務がある。

被告会社は「丸大運送株式会社」であり、被告丸大運送店は「丸大自動車運送店」であるが、その基本部分である「丸大」と「運送」は同一であるから、その商号は同一とみるのが相当である。

(三)  損害

1 入・通院慰藉料 金五〇〇万円

(1) 追川病院に昭和四八年一二月二七日から昭和四九年一月二四日まで、水戸整形外科病院に昭和四九年一月二四日から昭和五〇年一二月二五日まで、小豆沢病院に昭和五〇年一二月二五日から昭和五一年二月一日まで、それぞれ入院(七六七日)

(2) 小豆沢病院に昭和五〇年一二月一〇日及び昭和五一年二月三日から同年一一月二五日まで、武井整形外科病院に昭和五二年三月二六日から同年五月九日まで、勝田整形外科病院に昭和五二年五月一一日から八月五日までそれぞれ通院

(3) 本件事故による受傷は極めて重く、更に高熱の続く胆嚢炎による甚しい苦痛を受けたものである。

2 入・通院雑費 合計金四〇万九九〇〇円

(1) 入院雑費  金三八万三五〇〇円

一日金五〇〇円の割合による七六七日分

(2) 通院雑費   金二万六四〇〇円

一日金四〇〇円の割合による六六日分

3 入・通院付添費 合計金五六万二〇〇〇円

(1) 原告の妻が、昭和四八年一二月二七日から昭和四九年八月三一日まで二四八日間入院中の原告に付添ったので、一日金二〇〇〇円の割合による合計金四九万六〇〇〇円

(2) 原告の妻が、原告の東京都板橋区小豆沢病院への通院に三三日付添ったので、一日金二〇〇〇円の割合による合計金六万六〇〇〇円

4 交通費 金二五万一〇二〇円

(1) 原告通院交通費 金七万九八六〇円

原告の小豆沢病院への交通費(往復) 金二四二〇円の三三日分

(2) 通院付添人交通費 金七万九八六〇円

原告の妻が、原告の右通院の付添に要した交通費

(3) 入院の付添のための交通費 金九万一三〇〇円

原告の妻が付添のため、自宅から水戸整形外科病院までの交通費一ヶ月金八三〇〇円(定期券)の割合による一一ヶ月分

5 休業補償 金九〇七万八八一五円

原告は、本件事故当時、一ヶ月金一一万四七四一円の賃金、棟上時に受領する祝儀が一ヶ月平均金四万円、年間賃金の三ヶ月分の割合の賞与金三四万二〇〇〇円を得ていたところ、昭和四八年一二月二七日から昭和五二年八月五日まで休業し、次のとおり合計金九〇七万八八一五円の収入を失った。

(1) 昭和四八年一二月二七日から昭和五〇年三月二三日まで一四ヶ月二八日間の賃金、祝儀の計金二三〇万六一二二円と年間賞与金三四万二〇〇〇円の合計金二六四万八一二三円

(2) 昭和五〇年三月二四日から昭和五二年三月三一日まで二四ヶ月と八日間の収入は、労働省告示「毎月勤労統計」によれば昭和五〇年三月二四日から建設業は二三パーセント上昇しているので、これによって計算すると、賃金、祝儀の計は金四六一万七〇五六円、賞与(二年分)金八四万一三二〇円の合計金五四五万八三七六円

(3) 昭和五二年四月一日から昭和五二年八月五日までの収入は五一パーセント上昇しているのでこれによって計算すると、賃金、祝儀の合計は金九七万二三一七円となる。

6 医師等への謝礼 金二一万一二〇〇円

(1) 追川病院の院長に金二万円、看護婦に金二万円

(2) 水戸整形外科病院に二年間入院中、院長に金三万七〇〇円、事務長、事務員に金一万九八〇〇円、レントゲン技師に金一万二〇〇〇円、マッサージ師(二人)に金二万四一〇〇円、看護婦(二〇人)に金三万九六〇〇円、家政婦に金一万一〇〇〇円

(3) 小豆沢病院の医師に金一万二〇〇〇円、看護婦に金一万四〇〇〇円

(4) 退院時荷物運搬代 金八〇〇〇円

7 入院部屋代 金一三万四六〇〇円

昭和五〇年四月から七月分 金六万六一〇〇円

昭和五〇年八月分 金二万一七〇〇円

昭和五〇年九月から一二月分 金四万六八〇〇円

8 後遺症による逸失利益 金二五一〇万七六四一円

(1) 原告は、骨折した第二腰椎前葉の二つの小骨片は体内の背椎付近の副大動脈のすぐそばに残留し、骨折の状態はそのまま残るため重いものは全く持てず、又馬尾神経等の圧迫による腰部、大腿部の痛みとしびれが残り、同じ姿勢でいることができず、右足の親指は昭和五二年二月頃からしびれ出し、現在全く感覚がない。そのため原告は二〇年にわたる長年の熟練を積んだ鉄骨工として働くことは勿論、軽作業に就くことができるかどうかもわからない状態であり、昭和五二年八月五日東金労働基準監督署において、後遺症障害等級は八級と認定され、その労働能力喪失率は四五パーセントである。

(2) 原告は、現在四〇才で今後二七年間は稼働可能のところ、その年収は前記のとおり金三三二万三二六円、労働能力喪失率四五%、二七年間の新ホフマン係数一六・八〇四を基礎として、原告の逸失利益の現価を計算すると、金二五一〇万七六四一円となる。

9 後遺症慰藉料   金五〇四万円

原告の後遺症は前記のとおりであり、しかも被告は「原告は未熟のため自分で打つかって落ちた。」と悔辱して謝罪することもない。

(四)  填補

1 原告は、昭和四八年一一月二七日から昭和五一年九月一一日までの間、労働者災害補償保険から長期傷病補償給付として金三一〇万六五四六円を、昭和五二年八月五日同保険から障害補償一時金として金二七七万八一八六円の給付を受けた。

2 原告は、被告会社から休業補償として金五二万円の支払を受けた。

(五)  弁護士費用

原告は原告ら訴訟代理人らに対し、本件訴訟を委任し、その報酬として金七八七万八〇八八円の支払を約した。

(六)  よって原告は被告らに対し、各自金四七二六万八五三二円及びこれに対する不法行為後の昭和五二年八月六日から支払がすむまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実中、訴外柴信義が訴外丸大運送店の従業員であり、本件事故が訴外丸大運送店の業務執行中に生じたものであること、訴外丸大運送店が訴外湯浅喜代蔵の個人商店であり、同人が原告主張の日時に死亡したこと、その法定相続人は原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

本件事故当時の訴外丸大運送店の経営者は、昭和四八年一一月二五日遺産分割協議により、被告泰一人となっていたものである。本件事故は原告の過失によって生じたものであり、訴外柴信義に過失はない。

すなわち、本件体育館の新築工事は、訴外大都建設株式会社(以下訴外大都建設という。)が佐倉市から請負い、更にその一部を訴外白土建設に下請させたものであり、訴外丸大運送店は訴外白土建設の右工事のため、本件クレーン車を訴外白土建設に運転手付きで賃貸したものである。労働安全衛生規則第五一八条二項によると、事業者である訴外大都建設は、作業床を設けることが困難であるときは防網を張り、労働者に命網を使用させる義務があったので、現場責任者の訴外渋谷雅彦を通じて作業員の原告に対し命網の使用を命じたにもかかわらず原告はこれを使用せず、又本件クレーン車が鉄骨を吊りあげて移動中であったことは原告が知っていたのであるから、その移動が終るまで従前の位置で命網をかけたまま待機するか、又は安全な場所で待機すべきであったのにこれを怠り、鉄骨の上を移動し、しかも吊り上げた鉄骨に注意すべきであったのにこれを怠り、停止していた本件クレーン車が吊り下げでいた鉄骨に自から頭部を接触して転落したものである。

本件事故当時、本件クレーン車は被告泰の所有であったが、前叙のとおり訴外白土建設に賃貸して引渡したものであるから、本件クレーン車の運行支配・運転手に対する指揮監督権は訴外白土建設に移転したものというべく、従って被告泰は本件事故当時本件クレーン車の運行供用者に当らない。

被告泰が被告会社に譲渡したのは、訴外丸大運送店の営業全部ではなく、クレーン車及びこれに付帯する債権債務を除いて譲渡したものである。

(三)  同(三)、(五)、(六)は争う。

三  抗弁

仮りに被告らに責任があるとしても、原告にも前叙のとおり過失があったから、賠償額を定めるについて斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで責任原因について判断する。

(一)  使用者責任について

1  訴外柴信義が訴外丸大運送店の従業員であり、本件事故が訴外丸大運送店の業務執行中に生じたことは当事者間に争いがない。

2  そこでまず訴外丸大運送店の経営者について判断する。

訴外丸大運送店は、訴外湯浅喜代蔵の個人営業であり、同人が昭和四八年一一月二〇日死亡したこと、同人の相続人は妻の被告いの、子の被告泰、同博、同喜美司であったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、昭和四八年一二月一五日訴外喜代蔵の相続人らが遺産分割協議を行い、長男の被告泰が訴外丸大運送店の営業及び営業用資産及び債務を、その余の相続人らは、他の資産を取得する旨の協議が成立し、被告泰が昭和四八年一一月二六日道路運送法(昭和二六年法律一八三号)四〇条の規定に基づき、訴外丸大運送店が有していた一般区域貨物自動車運送事業免許の相続認可申請をなし、同年一二月一五日その認可を受けたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の事実によると、本件事故当時の訴外丸大運送店の経営者は被告泰であり、被告いの、同博、同喜美司は右営業の準共有者であったことを認めるに足りる資料はない。

3  訴外柴信義の過失の有無について判断する。

《証拠省略》によると、佐倉市立志津小学校体育館の鉄骨組立は、柱を六本づつ向い合せて建て、これに主合掌を六本のせ、主合掌の間に副合掌を五本取付ける工事であったところ、本件事故は柱を建て終り、その上に主合掌を三本、副合掌を一本と二分の一の取付工事を終った時点で生じたこと、本件クレーン車を運転していた訴外柴信義は、次に取りつける副合掌の鉄骨を吊り上げて取付ける部分に移す作業にかかったが、組立てられた合掌の鉄骨上には、原告、訴外柴好弘、訴外寺門の三人が取付作業に従事していたので、これらの作業員が次の副合掌取付場所に移動が終った後に、しかも安全のため組立られた鉄骨の位置より二メートル以上の高さで鉄骨を吊り上げ、移動する方向の安全を確認しながら移動すべきものを、鉄骨上の原告らの移動が終ったかどうかは容易に確認し得る位置にいたにもかかわらずこれを確認せず、吊り上げた鉄骨の高さも組立てた鉄骨から二メートル以上の距離をおかないで、しかも吊り上げた鉄骨の移動方向の安全を確認しないまま移動したため、折から次の作業場所に移るため、幅約二〇センチメートルの主合掌を歩いていた原告に当りそうになったのを見た他の作業員が原告に大声で注意したとたん鉄骨が原告の頭部のヘルメットに当り、そのため被告はパバランスを失って転落した事実が認められる。

もっとも安全衛生規則によると、右の工事の場合、安全網を設置し、命網を使用することになっているが、右工事の程度では安全網の設置はできず、又鉄骨の上を移動中に命網を用いることもできないことは原告本人尋問の結果によって認められるので、これを捉えて原告側の過失ということはできず、又乙第一号証には原告が吊り上げた鉄骨が停止していたところに原告が当ったものであるとの記載があり、又これと趣旨を同じくする証人柴信義の証言部分(第一、二)があるが、いずれも前掲証拠に対比して採用できない。

ところで原告がしていたのは高所の危険な作業であるから、原告にも他の作業員の作業に留意して危険をさけるべき注意義務があるところ、前掲証拠によると、原告が他の作業員の作業に全く意を配らなかった点は、高所で狭い鉄骨の上を移動するときはそれだけに全神経を使って他をみる余裕がないのが一般であり、又本件事故当時原告が着用していたヘルメットにはつばがついていたため、足元の鉄骨をみて移動していた原告にとっては、頭上の高さの鉄骨が極めて見難い位置にあったこと等の事情を考慮しても、原告にも過失があったものというべく、その割合は原告が二割、訴外柴信義が八割と認めるのが相当である。

以上のとおり、本件事故は訴外柴信義の過失によって生じたものであるから、被告泰はその使用者として、本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(二)  自賠法三条の責任について

原告は、被告いの、同博、同喜美司は本件クレーン車の運行供用者であったと主張するけれども、本件全証拠を検討しても原告の右主張を認めるに足りる証拠はなく、かえって前認定のとおり、遺産分割によって本件クレーン車は被告泰の所有となり、同人がこれを使用していたものである。

従って被告いの、同博、同喜美司に対する原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(三)  被告会社の責任について

訴外丸大運送店の営業は、前認定のとおり被告泰が相続したところ、《証拠省略》によると、訴外丸大運送店は、一般区域貨物運送業を営むほか、被告泰所有名義のクレーン車を使用して土木建設機械の賃貸業を営んでいたこと、被告泰は昭和四九年一月一一日訴外丸大運送店の一般区域貨物運送事業を被告会社設立発起人代表湯浅泰に譲渡したい旨認可申請し、同年二月二五日その認可を得たこと、被告会社は訴外丸大運送店の営業と同種の一般区域貨物運送業、土木建設機械の賃貸業を目的とし、被告泰が金一三〇〇万円、被告いの、訴外湯浅和枝、同湯浅マサエ、同稲野辺トヨ子が各金四〇万円、被告博、同喜美司が各金五〇〇万円の出資により、昭和三九年三月一八日設立されたいわゆる同族会社であること、被告泰が代表取締役、被告いのが監査役のほか他の発起人全員が取締役となったこと、被告会社は丸大運送店の営業場所をそのまま使用し、しかも従業員・車輛(クレーン車を含む。)もそのまま続用し、従業員の中には訴外丸大運送店と被告会社の営業は同じものとの認識をしていたものがいたこと、被告会社は訴外丸大運送店の債務の支払をしていること等の事実が認められ、これらの事実と当事者間に争いのない訴外丸大運送店の営業のうち、クレーン車及びこれに関する債権債務を除く部分を被告会社に譲渡した事実を合せ考えると、被告泰は被告会社の設立に際し、訴外丸大運送店が経営していた土木建設機械の賃貸業を被告会社に営業譲渡したものと推認するのが相当である。

被告は、クレーン車及びこれに付帯する債権債務は被告会社に譲渡したことはないと主張し、これにそう《証拠省略》があるけれども、訴外丸大運送店の資産の一部が譲渡から除外されたとしても、そのことが直ちに営業譲渡の認定の妨げとならないし、前認定のとおり、訴外丸大運送店、被告会社ともに土木建設機械の賃貸業を営むところ、被告泰所有名義のクレーン車が、訴外丸大運送店、被告会社ともにその営業に使用し、営業場所も従業員も同一であったから、訴外丸大運送と被告会社の営業は同一性を有するものとみるのが相当であり、又訴外丸大運送店のクレーン車に付帯する債務が譲渡の対象から除外されたことを認めるに足る資料はない。

右認定の事実によると、「丸大自動車運送店」と「丸大運送株式会社」とは、店が株式会社と変り、「自動車」の文字がなくなっているけれども、取引上の社会通念に従えばその商号は同一性を有し、商法二六条の商号の続用する場合に当るものと解するのが相当であるから、他に主張のない本件においては、被告会社は同条一項により、被告泰(訴外丸大運送店)の債務の弁済の責任を負うものというほかはない。

三  損害額について判断する。

(一)  入・通院慰藉料

《証拠省略》によると、請求原因(三)の1の(1)ないし(3)の事実が認められ、この事実によると、原告の入・通院慰藉料は金二二〇万円が相当である。

(二)  入・通院雑費

原告が前叙のとおり七六七日間入院したので、その症状等からみて一日金五〇〇円を下らない雑費を要したものと推認されるので、その損害は金三八万三五〇〇円となる。

しかし通院雑費については、原告は後記のとおり通院交通費を請求しているところであって、他に通院に雑費を要したことを認めるに足る資料はない。

(三)  入・通院付添費

1  《証拠省略》によると、原告の前記入院期間のうち、原告の妻が二四八日間付添ったが、原告の症状からみて付添を要したものと認められ、その費用は一日金二〇〇〇円を相当とするから、合計金四九万六〇〇〇円となる。

2  又《証拠省略》によると、原告が東京都板橋区にある小豆沢病院に三三日間通院したが、その間通院の付添を必要とする症状であり、原告の妻が右通院に付添ったので、その付添費用は一日金二〇〇〇円の割合による合計金六万六〇〇〇円となる。

(四)  交通費

《証拠省略》によると、原告とその妻が小豆沢病院までの交通費(一人分往復金二四二〇円)として、三三日分計金一五万九七二〇円を要したこと、原告の妻が水戸整形外科病院に入院中の原告に付添うため、自宅から国鉄勝田駅まではバスの、勝田駅から水戸駅までは国鉄の定期券を購入し、一ヶ月分金八三〇〇円の一一ヶ月分計金九万一三〇〇円を要した。

(五)  休業補償

《証拠省略》によると、原告は本件事故による傷害のため、昭和四八年一二月二八日から昭和五二年八月五日まで休業したこと、本件事故当時の原告の収入は一ヶ月金一一万四七四一円の賃金、年間金三四万二〇〇〇円(三ヶ月分)の賞与であったこと等の事実が認められ、これに《証拠省略》を総合すると、原告の収入は昭和五〇年四月一日から少くとも二三パーセントの昇給をしたものと認められるので、これによると原告の収入は一ヶ月金一四万一一三一円の賃金と年間賞与金四二万六六〇円となる。これを前提として休業損を算出すると、次のとおりとなる。

昭和四九年一月一日から昭和五〇年三月三一日まで

賃金 一五ヶ月分  金一七二万一一一五円

昭和四九年一月一日から同年一二月三一日まで

賞与 一年分  金三四万二〇〇〇円

昭和五〇年四月一日から昭和五二年七月三一日まで

賃金 二七ヶ月分  金三八一万〇五三七円

昭和五二年八月一日から昭和五二年八月五日まで

賃金 二五分の五月  金二万八二二六円

昭和五〇年一月一日から昭和五二年八月五日まで

賞与 二・五年分  金一〇五万一六五〇円

計金六九五万三五二八円

《証拠省略》によると、原告が勤務していた訴外白土建設が昭和五〇年八月倒産したことが認められるので、原告主張のように昭和五二年四月一日から五一パーセントの昇給があったとは考えられず、昭和四八年一二月二八日から同月三一日までの賃金を請求するが、右《証拠省略》によると原告は同年一二月分の賃金を受領しており、又原告主張の祝儀は、その性質上直ちに逸失利益と認めるのは相当でない。

(六)  医師等への謝礼等

《証拠省略》によると、請求原因6の事実が認められるが、原告の症状、入・通院の期間等からみて、本件事故と相当因果関係を有するのは、水戸整形外科病院を退院する際要した荷物の運搬賃金八〇〇〇円と、次の金員と認めるのが相当である。

追川病院の院長と看護婦に各金一万円

水戸整形外科病院の院長と看護婦に各金一万円

小豆沢病院の医師と看護婦に各金五〇〇〇円

(七)  入院部屋代

《証拠省略》によると、原告が水戸整形外科病院に入院中の昭和五〇年四月から一二月まで、部屋代・冷暖房費として金一三万四六〇〇円を支払ったことが認められる。

(八)  後遺症による逸失利益

《証拠省略》によると、厚告は昭和五二年八月五日労働者災害補償保険の障害等級八級の認定を受けたこと、原告は当時四〇才であったことが認められ、当時の原告の年収は前認定のとおり金二五三万四八九七円であるところ、その実態からみて、今後一五年間は鉄骨工として稼働可能であり、その後は一〇年間その年収の七割の収入を得て得て稼働可能であって、原告の労働能力喪失率は四五パーセントと認めるのが相当である。

これを前提として、新ホフマン方式により昭和五二年八月五日現在の逸失利益の額を算定すると次のとおりとなる。

2,534,897×0.45×10.9808=12,525,838(円)

2,534,897×0.7×0.45×(15.9441-10.9808)=3,963,158(円)

計 1648万8986円

(九)  後遺症慰藉料

本件事故の状況、原告の傷害、後遺症の程度等諸搬の事情を総合すると原告の後遺症の慰藉料は金三三六万円と認めるのが相当である。

四  過失相殺

原告の前記三の損害は合計金三〇三九万一六三四円となるところ、原告の過失二割の過失相殺をすると、金二四三一万三三〇七円となる。

五  填補

原告が労働者災害補償保険から合計金五八八万四七三二円を、被告会社から金五二万円の支払を受けたことは原告の自認するところであるから、その結果、原告の残損害は金一七九〇万八五七五円となる。

六  弁護士費用

原告の請求額、認容額、本件事故の態様等諸般の事情を総合すると、弁護士費用は金一八〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上のとおり原告の本訴請求は、被告泰、被告会社に対し、各自金一九七〇万八五七五円及び内金一七九〇万八五七五円に対する不法行為後の昭和五二年八月六日から、内金一八〇万円に対する本判決言渡の日からそれぞれ支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので正当として認容し、その余は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

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